【会報72号より】おすすめの一冊

『ケーキの切れない非行少年たち』から学ぶ

1中校区 藤本 泰雄

 

「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか?5人では?皆が平等になるように切って下さい」

児童精神科医の筆者である宮口幸治氏は、医療少年院に赴任し法務教官として勤務する中で多くの非行少年と出会います。そして、強盗、強姦、殺人事件など凶悪犯罪に手を染めた中学生・高校生の非行少年のほとんどが《ケーキを三等分に切る(図①②)・五等分に切る(図③④)》ことができないでいることに気づくのです。

計算ができず、漢字も読めない、計画が立てられない、見通しが持てない。また、何よりも筆者を驚かせたことは、約8割の少年が共通して「自分は優しい人間だ」と答えたことでした。ある殺人を犯した少年も「自分は優しい」と答えています。

他者とのコミュニケーションを通じて自己へのフィードバックが正しく行えていないと「自分を変えたい」という動機につながらないといいます。他者とのコミュニケーションを図ることで相手の反応を見ながらフィードバックする作業を数多くこなすことが必要なのです。

本書には、なぜこのような少年が存在し、どう対処していけばよいのか、小学校教育からの現場で応用できるヒントとして、朝の会の1日5分でできる「コグトレ(認知機能トレーニング)」というメソッドも紹介されています。

これらの少年は実は小学校2年生ぐらいから少しずつ見え始めるということです。勉強についていけない、遅刻が多い、宿題をしてこない、友達に手を挙げる、万引きをする等が見られ、これらの背景には知的障害や発達障害といったその子固有の問題や、家庭内の不適切な養育や虐待といった環境の問題があるということも看過できません。

彼らはこういったサインを小中学校にいる時から出し続けていたはずだという筆者の指摘には真摯に耳を傾ける必要があると思いました。

 友達から馬鹿にされ、イジメにあったり親や先生から「手がかかるどうしようもない子だ」と思われたりして単に問題児として扱われてしまい、その背景に気づかれず、結果として問題が深刻化しているケースもあります。このような子どもは、学校にいる間はまだ大人の目が届くのですが、学校を卒業すると支援の枠から外れてしまい、本人が困っていなければ自ら支援を申し出ることはほとんどありません。仕事は続かず、人間関係もうまくいかず、ひきこもったりして社会から忘れられていくことになるのです。

「境界知能」という言葉をご存じですか?

知能分布のIQ70~84で、全体の14%いるといわれています。現在の標準的な35人学級では約5人いることになります。

これらの子どもは、知的障害や発達障害の診断がつくことはありません。病院に行っていろいろな検査を受けてもIQ70以上あれば「知的に問題はありません。様子を見ましょう」と言われ、何らかの支援を受ける機会を逃しています。中学校に進むにつれ自分で変化に対応していくことはますます困難になり、ストレスの中、不登校、不良仲間とつるむ、夜間徘徊、喫煙、自転車盗といった問題行動を繰り返し、警察に補導されるようになります。

成人として社会に出ると、社会では厳しい現実にさらされ、仕事でミスが目立つ、職場での人間関係がうまくいかない、転職を繰り返す、引きこもりやうつ病になり、最悪の場合、犯罪を繰り返して少年院や刑務所に入ることになり、社会から忘れられた存在になっていくことが多いのです。

本書ではこうした「境界知能」の人々に焦点を当て、特徴、原因、対処方法、トレーニング方法など、彼らを学校や社会生活で困らないように導く実践的なメソッドも公開されています。

 最後に、私たち保護司が刑務所や少年院から退院した保護観察対象者の中に、境界知能(IQ70~84)に該当する人たちはいないでしょうか? もし思い当たる人がいるようなら、この本は大変参考になると思います。きっと見方、接し方、考え方、面接の在り方に大きな示唆を得ることができると思います。

「目からウロコ」の本です。

是非一読をおすすめします。

宮口幸治 ケーキの切れない非行少年たち
おまけ情報
ラジオ番組「武田鉄矢 今朝の三枚おろし『ケーキのきれない非行少年』 少年犯罪はどうして起きるのかも取り上げられYouTubeで聴くこともできます。時間のない方にはおすす 
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