【会報73号より】視点:今を考える1

大念寺に「ハル」が来た

実験動物犬の物語

關本 和弘

 縁あって昨年の令和2年2月、大念寺に3代目の番犬が来ました。犬種はビーグル、月齢は13ヶ月齢、性別は雄、名は「ハル」です。彼はある研究施設で使われる、いわゆる実験動物の一匹でした。

実験動物で使われる犬はほぼ世界共通でビーグル犬です。ビーグル犬は多産で飼いやすい犬であることや、ビーグルを実験犬として統一することで、品種の差によって実験結果の共通性が失われないようにするために採用される傾向があります。

製薬会社をはじめ、化粧品、タバコ産業や大学、私たちの知らないところでこういった実験動物が使われています。ラット、ネコ、犬、チンパンジー、目薬を作るのであればウサギ等の動物を経て、安全性を確保した上でようやく人間の治験が行われます。人間に至るまでに無数の命が失われるのです。その無数の命の上に私たちの健康や美容が成り立っているのです。

実験動物の犬に関して言えば六ヶ月まで生産者の元で暮らします。その後、各研究機関に買われ、「納品」されます。「ハル」が居た施設では最初に20頭の犬が買われました。その20頭の体重や体高の平均値から近い順で実験に使われます。平均から大なり小なり大きく外れた犬は予備として飼われます。それら予備は実験に使われないことが決まった時点で殺処分となります。早ければ生後10ヶ月、遅くとも4年で処分されます。ただしこれはあくまで「ハル」がいた施設でのお話で、すべての施設に当てはまることではありません。

そんな経歴の「ハル」ですが、昨年2月に大念寺に来て、3月より警察犬訓練所に入所することになります。ビーグルという犬種は賢く、訓練次第でかなりの可能性を引き出すことができます。 

「ハル」も入所から半年で無事に警察犬に合格することができました。以来お寺の看板犬として、また番犬として活躍しています。

「ハル」に会ってみたい、あるいは実験動物に興味があり引き取ってみたいとお考えの方がいらっしゃればいつでも大念寺にお越し下さい。

いつの日か実験動物という命を使わなくても新薬が開発できるようになるとは思います。ですがその日はまだ遠く、今年や来年にはそうなるとは考えられません。それまでの間、私たちの見えないところで支えてくれる命が必要です。実験動物として生まれ、幸いにも実験に供されること無く施設を卒業した命の受け皿が広がっていくことを願ってやみません。

ハル
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