【会報72号より】視点:上海の教育事情2

上海で三年間暮らして

上海で見た道徳形成

 一中校区 入江  正

 上海での三年間(2015~17)は驚きの連続でした。赴任した上海日本人学校浦東(プードン)校は大型スクールバスを 台も運行していました。しかも日本で見たこともなかった電気バスです。

地下鉄では、当時日本でも珍しいホームドアが全ての駅に設置され、スマートフォンでタクシーを呼び出すシステムもありました。上海は一年毎にすごいスピードでより安全に、より便利になっていき、どんどん遅れていく日本の姿を実感しました。 

 一年目の上海は、人も車も信号を守らない、道路に平気でごみを捨てる、列に割り込むなど、道徳意識の全く感じられない街でした。ところが二年目、国がテレビやポスターで道徳教育キャンペーンを始めるや、信じられない光景が繰り広げられたのです。

規則としての道徳事項を国が決め、罰則を伴って実施された日、いつも通り信号を気にせず道路を横断しようとしたのは私一人。周りの中国人はみんな信号が変わるのを待っているのです。規則に違反すれば必ず罰則がある、これが中国社会の鉄則なのです。

次々と規則が作られ、地下鉄では乗客の整然とした列ができ、割り込みがなくなり、道路にごみを捨てる人もいなくなりました。車が無秩序に進入していた交差点ではクラクションの騒音も消え街の様子は一変しました。

「こんな方法で中国の道徳意識が高まったと言えるのか」と最初は疑問に思いましたが、子どもたちを見て愕然としました。

彼らは、ルールやマナーが守られている上海の街の姿をあたり前の姿と受け止め、ルールもマナーも自然と身につけていきました。

信号を守る、道路にごみを捨てない、列を守る、これが社会の中であたり前の行動として子どもの中に定着し、道徳観が醸成されていったことに驚きました。

これは中国だからできることだと思いますが、今の上海にはきちんとした道徳観を持った子どもが育っているのも事実です。翻って日本はどうでしょう。子どもたちが学校で学んでいる道徳と街の姿は一致していると言えるでしょうか。

未来の日本を担うのは子どもたちです。彼らにもっと良い世界を築いてもらうためにはまず私たち大人が子どもに誇れる社会を示していくことが大切ではないでしょうか。

子どもは大人の姿をしっかりと見て育つのです。
世界のトップを目ざし、驚くべき速さで変革を遂げる上海で生活し、日本の今の姿に新たな思いを持った三年間でした。

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